「うっ、うっ、ウナギが食べたいな
尾花のウナギが食べたいな」 これは日本映画界の巨匠 小津安二郎氏が生前よく口ずさんでいた。 その当時、映画界に 二人の食通が居た。 一人は小津氏、 もう一人が山本嘉次郎氏である。 もっとも、この二人 贔屓の店に対しての考え方が違う。 嘉次郎氏は旨いと聞けば どこまでもお店を追いかけて 新規開拓の情熱に燃えていた。 そのため、名前をもじって ”なんでも かじろう”と渾名されたほどだった。 一方、小津氏はひとたび気に入った店に とことん惚れこむタイプの男だった。 その小津氏に”ぞっこん”されたのが 南千住の”尾花”だった。 彼は機会をとらえ 足繁く”尾花”に足を運んだし 毎年の大晦日は この店で打ち上げを行うのが 通例だった。 尾花でたらふくウナギを食べた後 小津さんは浅草の観音様にお参りし 終夜運転の横須賀線で 自宅の鎌倉にたどり着くのは 3時、4時だったという。 小津さんには遠く及ばぬが 梅雨の雨空をものともせず 南千住に向ったのが 7月はじめの事だった。 開店、11時半の30分前には 店の前に傘の花が開いていた。 ただ、幸か不幸か 雨模様の為、いつもよりお客は少なく 開店時の行列は50名以下だった。 人によってウナギの好みもまちまちで それぞれの贔屓の店を持っていると思う。 私の場合、尾花に出会う前は 築地の宮川が好みだった。 麻布の野田岩は その昔行ったきりで 当時の印象がハッキリしない。 銀座の竹葉亭は 名前ほどの味ではなかった記憶がある。 さて、尾花のウナギだが ここの”ふわっとした”食感は抜群だ。 それが”鰻ざく”と”白焼き”に 如何なく発揮されている。 特に白焼きの場合 蒲焼と違って ”タレ”でのごまかしがきかない。 尾花の白焼きの美味しさ それは正真正銘、 これぞ関東流家元の味だ。 ぬる燗でやったあとは 勿論、うな重をいかねばならない。 普通だと、箸の進みが遅くなる頃だが ここのウナギは脂はのっているものの しつこくないので あっという間に重箱が空になる。 もしも運が良ければ 1年に10日入るか入らないかの 純天然鰻に出くわすこともあるそうだ。 この日は当然のことながら”はずれ”の日、 しかし、十分に鰻の旨さを堪能した。 しかし、昼酒ってやつは 気持がいいが・・・・、利くなーーー、 「ふいーーーー、満足であるぞ」 参考、 「昔の味」 池波正太郎 「文壇の食通達」
by shige_keura
| 2009-07-13 09:17
| 食
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