今日の主人公は本シリーズの中で
最も知名度の低い女優であり 本編の登場場面もそんなに多くはない。 しかしながら彼女の登場は印象的であり 役割も重要であった。 そのため、彼女の役名クレメンタインは 映画のオリジナルタイトルにもなっている。 「My darling Clementine」、 ”愛しのクレメンタイン” 演ずるはキャシー・ダウンズ、 日本ばかりか本国アメリカでも 今では知る人は余りいないだろう。 しかし、彼女はこの役ひとつで 映画史に名を残す事になったのだから 幸せといえば幸せだ。 キャシー・ダウンズのクレメンタインなくしては この映画の成功は望めなかったであろう。 ところが、この素敵なタイトルは 日本の愚かな配給会社により 「荒野の決闘」の名前で公開されてしまった。 これほど誤解を与える題名もない。 これでは観客は ジョン・フォードの前作、「駅馬車」の 興奮と快感を期待して映画館に来るはずだ。 ところがこの映画には ガンマンの対決、鮮やかな抜き打ち、 インディアンの来襲、颯爽とした騎兵隊の救援 そんなシーンは何処にも出てこない。 名匠、ジョン・フォードが描きたかったテーマ、 それは名保安官ワイアット・アープが 東部から来た貴婦人、クレメンタインに対して ひそかに抱く淡い恋の物語なのである。 これでオリジナルタイトルの意味もハッキリする。 そして、それに見事に応えたのが キャシー・ダウンズの存在だった。 何故、東部の貴婦人が 荒らくれ男のたむろする西部の町、 トゥームストンに来たのか? それはかつての許婚、 名門の出でありながら死病の結核にとりつかれ 今は身を持ち崩したドグ・ホリデー(ヴィクター・マチュア好演)を追ってきたのである。 駅馬車を降りた彼女を出迎えたのが 偶々その場に居合わせたワイアット・アープだった。 ヘンリー・フォンダ演ずるワープは いっぺんでクレメンタインに好意以上の感情を抱くが 盟友ドグ・ホリデーと彼女の因縁を知ってはどうしようもない。 ドグはクレメンタインを想い 彼女を東部に帰そうとするが聞き入れない。 このさなかに、西部史上有名な史実 通称、”OK牧場の決闘”が起こり ドグは敵の凶弾を浴び死んでしまう。 ところが事実としては この決闘でドグは射殺なんかされず ピンピンと生き残っている。 ジョン・フォードは何故、 事実を曲げてドグは射殺された事としてしまうのか? そうでもしないと西部劇史上名高いラストシーンが 成立しない事となってしまうからなのだ。 保安官を辞め、もとの牛追いとなって 町を去るワイアット・アープは 見送りに来たクレメンタインと短い会話をする。 「貴女はこの町に残るんだって?」 「ええ、学校の先生として暮らしていきますわ」 「そうかい!今度牛を追ってこの町のそばを通る時には 必ず寄ることにしよう。 クレメンタイン! いい名前だ!!」 馬で去るワイアット・アープ 見送るクレメンタイン、 バックに流れるのは勿論、”愛しのクレメンタイン”。 心に染みる場面、 西部劇では「シェーン」と並ぶ 名ラストシーンである。 最後にこれだけは言っておきたい事がある。 それはこの映画で ジョン・フォードがついた二つ目の大嘘だ。 それは西部の歴史を調べると どこにもクレメンタインの名前は出てこない。 すなわち、クレメンタインは架空の人物、 ここまでこの有名な史実を曲げて描いたのは ジョン・フォードのみである。 そこにジョン・フォードが この映画で描きたかった意図がはっきりと現われている。 「Oh my darling Clementine」
by shige_keura
| 2010-11-11 08:54
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