名人、落語で言えば真打だ。
真打が居れば、その下に 前座、二つ目が控えている。 とかく、この世は序列の世界、 それは料理においても変わらない。 シェフの下には包丁も扱わせてくれぬ皿洗いや ジャガイモの皮むき専門職もいる。 4月28日、前日の荒天が収まった好日、 「春の宴」と名前だけは華やかなれど、 集まりし9名は真冬ど真ん中の高齢者。 とは言え、この真冬の木枯らし老人たち、 年も考えずに”良く呑み、良く食う客”なのだ。 目的は包丁さばきの名人と自他ともに許す 従弟の名人芸を心ゆくまで堪能しようとするものだ。 ”春の宵、木枯らし老爺 うち揃い 皿を空にし 杯を飲み干す” しかし、いかに名人とは言え 9名分すべてを用意するのは至難の業、 そこで前座の私が登場する。 前座の仕事は前日の仕込から始まる。 ただ、普通の前座との違いは 仕込だけではなく料理までも担当することだ。 すなわち、お品書きのすみ分けは 主に従弟が魚料理、私が肉料理となっている。 ここは築地本願寺、目指すところは程近く 鶏の名店”宮川”にあり! 個性豊かな青銅の外壁が この建物の年輪を物語っている。 それもそのはず、宮川の創業は明治35年、 歴史は110年を重ね 最近文化財指定を受けた店は 築地一帯の中でひと際異彩を放っている。 笹身、鶏皮、砂肝、ひき肉等を仕込んだ私が 先ず、とりかかったのが ひき肉と三つ葉の油揚げ包み煮、 通称、”巾着”である。 この一品を取り上げた理由はただひとつ、 前日に料理を仕上げることが出来るからだ。 宴開始早々、取りあえず、 木枯らし老爺の口封じにはなるだろう。 鶏挽肉300グラムに対して 大量の三つ葉(六把)を混ぜひたすら手でこねていく。 いかにも前座らしい仕事であり 面白くもなんともない。 こねあげたところで、湯通しした油揚げを半分に切り お稲荷さんの要領で袋の中に詰めていく。 あとは、深鍋に巾着を並べ 醤油と酒で味付けしただし汁で煮込んでいく。 その間に、鶏皮と生姜の照り焼きも用意する。 日付は飛んで明日になる。 朝8時半過ぎに家を出なければいけない。 何故ならば名人に同行し 魚の仕入れの御供である。 ほんに、修行の身とは辛いものである。 本日の波乱万丈の行く末を案じつつ 東横線の車中の人となり目的地へと向かった。 と言うわけで、名人の登場は明日になります。
by shige_keura
| 2011-05-03 10:53
| 食
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