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春の信濃路 -巨匠の”夢”舞台-
世界に名高い日本人監督の最高峰と言えば
黒澤明を推す声が最も強いだろう。
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               (1990年、アカデミー名誉賞受賞
                黒澤を尊敬するJ・ルーカスとS・スピルバーグと)

その黒澤が彼自身のメッセージを込めて作ったのが
1990年の「夢」、既に80歳の老境に達した時の作品だ。
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この映画は、黒澤が自身で見た夢を題材にし
8話からなるオムニバス映画である。

その中の、最終話、「水車のある村」の撮影が
大王山葵農場脇で行われた。
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そこは美しき緑の草原の中を
清らかな湧水が湧きあがる小川が流れ
脇には三つの水車がゆっくりと廻っている。
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1980年の「影武者」以降
画面の色彩トーンに神経を張り巡らせた黒澤だが
ここは、当時の彼がいかにも好みそうな場所である。

しかしながら、私が好きだった頃、
即ち「七人の侍」から「天国と地獄」までの黒澤ならば
このような静寂そのもの、又、美しすぎる場所をロケ地には選ぶまい。
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「七人の侍」、「用心棒」、「椿三十郎」
そして「天国と地獄」からは
黒澤の映画にかける熱い情熱と
豊かなエネルギーが画面からほとばしっていた。

即ち、画面は男性的な動きを通して
黒澤の娯楽映画の真髄を伝えていた。

目の前に広がる静かな”夢”舞台を見ていると
黒澤とならぶ世界的大監督共に
如何に有能であれ、
年には勝てぬという想いがこみ上げてきた。

その大監督とはアカデミー監督賞を4度獲得した
アメリカのジョン・フォードである。







ジョン・フォードが、面白さの観点では
西部劇の最高傑作である「駅馬車」を作ったのが
1939年、彼、45歳の時のことだ。
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一方、黒澤が娯楽映画の最高峰、
「七人の侍」を世に出したのが1954年、
彼、44歳の時の事だった。
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「駅馬車」のインディアン襲撃の場面、
「七人の侍」、野武士を迎え撃つ雨中の決闘、
両作品を上回るアクション場面は
半世紀以上たった今も現れてこない。

両者の作品群の中で完成度が最も高い、
黒澤の「天国と地獄」が53歳の時であり
フォードの「荒野の決闘」が52歳、
共にほぼ同じ年代の時の事だった。
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私が想う黒澤らしさを保ったのが
55歳で手掛けた「赤ひげ」までであり、
フォードが彼の思い通りの映画を作ったのが
故郷、アイランドを舞台とした「静かなる男」、
彼、58歳の時だった。

奇しくもこの両作品以降、
黒澤は盟友、三船敏郎と決別し
フォードはそれまでのように
ジョン・ウエインを起用しなくなった。

盟友との別れと迫りくる老い、
以降の両監督の作品からは
スカッとした面白さが消えてしまった。

特に黒澤の場合、「赤ひげ」以降、
「どですかでん」、「影武者」、「乱」では
妙に世間、特に外国の目を意識し
本当の娯楽映画とは何かを忘れたようになってしまった。

これが、老いと共にやってくる
大監督病、名匠、巨匠症候群だと思う。

即ち、若い頃の素直な気持ちで
映画に打ち込むことが出来なくなったのだろう。

その黒澤が80歳を迎えて作ったのが「夢」、
この作品には、若い頃のダイナミックさは何処にも見当たらぬが
久しぶりに彼の素直な気持ちが伝わってくる映画だった。

とくに、第8話目の「水車のある村」では
自分の言葉を老人、笠智衆に託している。

笠はつぶやく、
「生きることは面白い、
 生きることは良いことだ」

黒澤はこの時点で残り少ない人生を受け入れながらも
自分が思っていた、面白い映画を作り続けようとの
達観した境地に到達したのだと思う。
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その想いが、静かな川の流れと
ゆっくりと廻る水車に表されている、
言わば、巨匠の悟りが感じられる作品が「夢」なのだ。

黒澤明の夢舞台、
新緑に囲まれた川面を
ゴムボートが静かに滑っていく。
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帰ったら、もう一度「夢」を鑑賞してみようか。
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by shige_keura | 2011-05-18 09:13 | | Comments(0)
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