今まで「映画の中の酒」と題して
スクリーンを彩ったアルコールを紹介してきた。 今回は、しかしながら酒は脇役、 主人公は呑んだくれの老爺二人である。 二人は違う作品だが、監督は共にジョン・フォード、 歴史に残る名作を盛り上げる脇役として登場してくる。 二人は年齢も体型も良く似ている。 ひとりは1888年生まれ、身長は162センチ、 かたや、1892年生まれ、160センチ、 欧米人としては極めて小柄である。 最初に登場願うのが、バリー・フィッツジェラルド、 「静かなる男」で酒好きの御者を演じた爺さんである。 この作品は、「駅馬車」、「荒野の決闘」、「黄色いリボン」等 西部劇の傑作で、映画会社を儲けさせたご褒美として 好きな作品製作を許されたジョン・フォードが 故郷、アイルランドへの愛を捧げた名画である。 アイルランド人は偏屈だ。 それは、長い長いイギリスの迫害に因るものだ。 イギリスの圧政下、 アイルランド人は知らず知らずに強情張りで 人見知りの激しい国民性を身につけていった。 おまけに、長く厳しい暗い冬、 荒れた土地で採れるのジャガイモばかり、 これでは心が荒まぬ方が不思議というものだ。 たまたま、湖沼地帯の泥炭がウイスキーづくりに向いていた。 さらには、麦からの恵み、黒ビール(ギネス)を生みだした。 こうして、アルコールが彼等の心を和ませ、 酒好きの荒っぽい人間ながら ひとたび、打ち解ければ情の熱いアイルランド人を創り上げた。 「静かなる男」は、無骨なアイルランド人が織りなす ヒューマン・コメディタッチ、私の大好きな作品だ。 ジョン・フォードがジョン・ウエイン以下、 お気に入りのスタッフを起用して 故郷、アイルランドへの愛情を注ぎこんだ作品。 ジョン・フォードの数多い傑作中にあって 彼自身が最も気に入ってる作品である。 (爺さんを囲む、主要スタッフ、左は監督の兄、フランシス・フォード ジョン・ウエイン、ヴィクタ―・マグラグレン、監督・ジョン・フォード) ジョン・フォード一家伸び伸びと好演、 中でも、こよなく酒を愛するミケリーン爺さん、 演ずるは生粋のアイリッシュ、バリー・フィッッエラルドが出色の出来栄え!! 緑濃いアイルランドの自然を背景に 全編酒の匂いを振りまいている。 問題の場面は、モーリン・オハラの家を爺さんが訪れた時だ。 早速、アイリッシュ・ウイスキーを所望するミケリーン、 ここで、名セリフが飛び出す。 「何ー! ウイスキーに氷じゃと!!! ウイスキーはウイスキーで割るのが一番じゃ!!!」 酒好きのアイルランド人、 けだし、名言である。 この、バリー・フィッッエラルド、 アカデミー賞のルールを変えた事でも知られている。 それは、1944年の名編、「我が道を往く」、 このとき、彼は年老いた神父を好演し、 何と、アカデミー主演賞、助演賞にダブルノミネートされた。 結果は、主演賞が若き神父を演じたビング・クロスビー、 助演賞がバリーと二人仲良くの受賞となった。 この時以来、アカデミー主演・助演、 ダブルノミネートは禁止となった。 話はこれで終わらない。 受賞数日後、 彼は自宅でゴルフの練習をしていた時 誤ってオスカー像を壊してしまった。 当時のオスカー像は石膏で出来ていた為、 修理不能のバラバラに砕け散った。 まさか、ウイスキー・ボトルを片手に ゴルフ練習をしていたのではあるまいね。
by shige_keura
| 2012-10-26 21:35
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