ここは人形町の甘酒横丁、
明治の初めに「尾張屋」という 甘酒屋があったのが名前の由来だと言う。 通りを歩くと、実に旨そうなものが目に入る。 甘味で言えば常に待ち人の絶えない鯛焼きの「柳家」 辛党には、桂三木助、先代・中村勘三郎が贔屓にした「草加屋」、 今でも店先では親父が手焼きせんべいをひっくり返している。 お惣菜でいえば、「双葉商店」の、がんもどきとお豆腐、 銀杏と野菜がたっぷり入ったがんもどきは実に旨い。 焼き鳥と玉子焼きの店が「鳥忠」、 焼き鳥との玉子焼きの甘辛の匂いが交差し、 店には吸い込まれるようにお客が入っていく。 いつもであれば、時間を費やし、 あれも買おう、これも良いな!となるところだが 今日に限ってはすげなく通り過ぎていく。 何しろ、先ほど食べた昼食で満ち足りているのだ。 日頃は冷たく通り過ぎる、 三味線屋、葛籠屋の前でショーウインドウを覗きこむ。 「へー、いまどき葛籠を売ってる店があるんだ」 ここが、つい30分前まで居た「芳味亭」(ほうみてい)、 下町独特の昔ながらの洋食屋である。 「芳味亭」の創業は昭和8年、 達人コック長後藤さんは今でも厨房で腕を振るっているだろうか。 彼は現在79歳、10歳の時、 即ち「芳味亭」創業時より住み込み 以来、甘酒横丁の栄枯盛衰を見守ってきた。 戦争直後は深刻な食糧難、 魚は近海物でしのぐことが出来たのだが 肉類は闇市でも法外な値段、 更には米は無い為、客が自分の食いぶちを用意した。 今はまさに隔世の感、 2階の座敷で豊富なメニューに心は乱れる。 洋食弁当からから始まり、定番のハンバーグ、海老フライ、 海老、蟹のコキ-ユ・コロッケから季節のカキフライ・・・・・・ 心は迷いに迷う。 ここは仲居さんのお勧めに従って 家内が一押しのビーフ・シチュー、 私が次点のタンシチューを頼むこととした。 昔の佇まいを残す通りを見下ろすこと15分 良い香りと共にビーフとタンのシチューが現われた。 (タンシチュー) 取り分けてひと口、ふた口、 仲居さんの言った通り、 特にビーフシチューはヴォリュームたっぷり、 味付けも濃すぎず薄すぎず、 まさに絶妙の出来栄えだった。 (抜群の味、ビーフシチュー) お値段は、共に2,400円、 味・ボリュームを考えると高くはない。 流行の先端と気取るスポットに行けば すくなくとも3,000円は下るまい。 おなかいっぱい、満足いっぱい、 晩秋の陽は暖かくふり注ぎ、 人形町・甘酒横丁、至福の一時を過ごした。
by shige_keura
| 2012-11-14 08:55
| 食
|
| ||||||
ファン申請 |
||