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年末の苗場  -三国街道-
12月29-31日、長女夫婦一家と共に苗場のスキー場で過ごした。

行く前は、雪景色を見ながら
孫たちの滑りを拝見するのが目的で
自分自身スキーをする積りは全く無かった。

何しろ20年以上スキーを履いた事が無いので
この年末に怪我でもしたら目も当てられぬと思ったからだ。

その予想は大きく外れることになるのだが、
まずは、我が敬愛する故池波正太郎師と係り合いの深い
三国街道の話から始めよう。

東京から苗場に車で向かう、
関越自動車路道を沼田で下りると直ぐに三国街道にでる。

ここは、かつて越後と関東を結ぶ唯一の交通路、
坂上田村麻呂、弘法大師、上杉謙信等々
歴史上の名だたる人物がこの道を往来した。
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さて、池波さんの数ある作品中、、
最大の傑作が「真田太平記」であるが
ここ沼田とすぐそばの月夜野に
物語上で重要な役割を演ずるふたつの城が登場する。
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ひとつは沼田城、信州上田に居を構える真田昌幸が
関東の北条氏牽制の為に築いたものだ。
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もうひとつが沼田城の支城である名胡桃城、
この城は昌幸の本拠地、上田と沼田の間の重要な中継点だ。

昌幸には二人の子供が居た。

兄は信之、弟は人気者の幸村であり、
兄は冷静沈着の管理者タイプならば
幸村は勇猛果敢な武将として愛されている。

昌幸は名胡桃を長男の信之に任せるのだが
彼が家康の重臣、本田忠勝の娘、
小松姫を嫁にもらったことで話は複雑に展開する。

即ち、東軍についた信之の名胡桃城が
西軍についた昌幸・幸村父子にとって
喉にささった魚の骨の如き存在になってゆく。

今、こうやってふたつの城跡の脇を通ると、
確かに名胡桃城の存在意義が腑に落ちるのである。

この城が東方に組みするものとなれば
真田の生命線である上田と沼田の連携が断ち切られることとなるのだ。

北の上杉謙信の脅威にさらされ
東の北条氏に対する警戒の目を緩めず、
更には豊臣、徳川力関係を測り、どちらにつくか
小さな領地の主、真田昌幸にとっては薄氷を踏む一生だったことだろう。

最終的に、家の存続を第一義と考え
兄と弟を引き裂いた苦渋の策、
それが戦国時代有数の智将・昌幸の選んだ手段だった。





猿ヶ京温泉の手前あたりから
三国街道は険峻の度を強めていく。

街道最大の難所、三国峠越えだ。

電車、車はおろかトンネルさえ開通されなかった頃、
重い荷を背負う旅人にとって
峠越えは想像できぬほどの辛い旅だったはずだ。

この難所、三国峠の内懐に抱かれるようにあるのが法師温泉(ほっし)だ。

この「法師の湯」の存在を知ったのは
山歩き、スキーをこよなく愛した父からだった。

「法師温泉」には素晴らしい旅館があってね、
温泉にゆっくりと温まったあとのビールは最高だよ。
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その素晴らしい旅館とは
池波さんの名エッセイ「食卓の情景」のなかの白眉、
「ランプの宿」に出てくる長寿館である。
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しかしながら、私は結局、この旅館を訪れることはなかった。

何故ならば、エッセイが書かれたのが昭和55年
その10年前には、もはや、昔日の神秘的な雰囲気は消えた、と書かれていた為だ。

もしも、このエッセイで紹介されていた
詩人・田中冬二氏の「法師温泉」の面影があれば
絶対に逗留したに違いない。

「隣といっても一里、夜はランプのあかりだけが何よりのたよりだ
 うす暗いがそれは人情のやうになつかしい
 軒端にせまる山の上は星がいっぱいだ
 氷水屋の硝子玉の簾のやうだ
 三国街道は其処を通っている
 何となくそこまで行ったら夜でもうす明るいやうに思はれる
 白い桔梗の花がつめたく咲いているだろう
 夜霧が雨のやうだろう
 とおく越後の村に祭りがあってその囃子の笛や太鼓でもきこえやしないか

 ランプの芯をほそくする
 誰か出て行ったやうだ
 みなれぬ客人---
 渓川の水の精である
 私は夜冷えを感じて障子をたてる」

なんと表現力の豊かなことであることか!
見た事もない、昔の三国街道の光景が浮かび上がってくる。
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街道の登りはどんどんきつくなり
行く手に1957年開通、長さ1.2キロの
三国トンネルの入り口が見えてきた。
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このトンネルを過ぎれば雪国!
白銀の苗場スキー場が迎えてくれる。
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by shige_keura | 2013-01-12 18:08 |
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