11月4日、秋晴れながら風の冷気に冬近しを感じる日、 ここは外堀通りの一角にある国立劇場である。 今日の演目は「伽羅先代萩」(めいぼくせんだいはぎ) 人間国宝であり文化勲章叙勲の坂田藤十郎が 当たり役とは言え歌舞伎女形の最難関と言われる 政岡を演ずる注目の舞台である。 「伽羅先代萩」は寛文年間(1661-1773) 実際に起きた仙台伊達家のお家騒動をモデルとした いわゆる「伊達騒動物」の中の代表作である。 歌舞伎の世界では、当時の世相との関係で 実際に起きた事件をそのまま舞台にすること出来ず 登場人物、世代を変更してお芝居に脚色するものが多い。 例えば「忠臣蔵」を見ても、「仮名手本忠臣蔵」と名乗る通り 大石内蔵助は大星由良之助、浅野内匠守は塩冶判官、 吉良上野介が高師直といった具合に名前を変えている。 「伽羅先代萩」(めいぼくせんだいはぎ)も 時代を足利時代に、場所も鎌倉へと変えているが、 演目名に「伊達騒動」を思わせるヒントが隠されている。 「先代」とはまさしく「仙台」を意味すると同時に 事件の発端となった廓通いの好きな 先代主君(足利頼兼)を暗に示している。 「萩」は古くは宮城野(現在の仙台平野)と呼ばれ 歌枕で盛んに詠まれた萩の名所を指している。 (1988年国立劇場「伽羅先代萩」 左・6代目中村歌右衛門(政岡)、中・3代目河原崎権十郎(八汐) 右・7代目中村芝翫(栄御前) それでは「伽羅」(めいぼく・きゃら)は何を意味しているのだろうか? 伽羅は銘木のなかの銘木、 香木のなかで最も高級な逸品である。 何しろ、お値段が金と同等、或いはそれ以上というのだから、 その香りは類稀なる芳しさであったに違いない。 この銘木・伽羅を下駄にして 足利頼兼は廓に足繁く通ったところから 伽羅(めいぼく)は先代主君を意味している。 同時に、通った相手が遊女の中の最高峰 高尾大夫を伽羅に託しているとの説もある。 この題材からヒントを得たのが落語の「伽羅の下駄」 滅多に高座にかからぬ、これまた貴重なお噺である。 お忍びで廓で一夜明かした足利頼兼、 朝帰りの途中、酔い醒ましの水が欲しくて 立ち寄ったのが、とある、豆腐屋。 豆腐屋だから水は旨い。 喉の渇きをいやした主君、 御礼にと履いていた下駄を置いていく。 「つまらねーもの置いてきやがって」と、 店の旦那は片隅にほっぽていたところ、 陽が当たるにつれ、下駄から何とも良い香りが漂ってくる。 「なんだ?これは??」 調べたところ、何と200両の逸品と分かり 夫婦して腰を抜かさんばかり。 しまいには、嬉しさで二人とも笑いが止まらない。 旦那は「ゲタ、ゲタ」と、女房は「キャラ、キャラ、キャラ」。 おあとがよろしいようで。
by shige_keura
| 2014-11-07 08:59
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