今となっては、とんとお目にかからない二千円札だが、
紙幣の裏に描かれている女性は誰か? 覚えておられるだろうか。 間違っても樋口一葉とお答えにならないで欲しい。 彼女は五千円札の中に描かれている。 登場人物は男性2名と女性1名である。 女性はともかく、3名全て答えられる人は そうそう居ないのではないだろうか。 11月14日、後楽園からの帰り道で立ち寄ったのが神楽坂、 あてもなく歩いているときに目に留まったのが「梅花亭」、 これは有名な店に違いない。 案の定、明治中期に柳橋で創業した老舗の暖簾分けながら 昭和10年以来神楽坂に店を構え今年で80年を迎える。 季節の銘菓、「栗きんとん」の名前に引き寄せられ店内に入ったところ、 「椿餅」なる菓子に目がいった。 「櫻餅」、「柏餅」、笹の葉でくるんだ「よもぎ団子」ならば良く知っているが 「椿餅」とは聞き慣れない。 爺と感じの良い若い女性店員とのやりとりである。 「この椿餅って???」 「中に漉し餡が入っています。 椿の葉は大島からのものですが食べられません」 「そりゃそうだろう。だけど、椿の葉って香りがするのかね?」 「いやー、どうでしょうか、しないですね。 ですけど、和菓子は古くは中国から伝わったものですが 日本固有の和菓子としては椿餅が最も古いのですよ。 何しろ平安時代の時からあったのですから、是非お試しください」 栗が変じて椿となった。 栗は食べられるが、椿の葉は食べられぬ、 全ては、日本最古の和菓子につられてしまった為である。 1964年の大ヒットソングが「アンコ椿は恋の花」、 ”三日遅れの便りをのせてーーーー 船は出ていく波浮港・・・・・・”。 都はるみの初ミリオンセラー曲だが このアンコは食べる餡子ではない。 大島では若い娘を「アンコ」と呼んでいた。 その昔、島では若い娘を「あねっこ」と呼んでいたのが 何時の間にか「アンコ」となってしまったらしい。 歌の意味するところは、 ”若い娘の恋心は椿の花の様に真っ赤に燃えている”ということである。 さて、「椿餅」だが確かに一節によると日本の和菓子の起源ともある。 何故なら、中国伝来の菓子はすべて揚菓子、 その中にあって平安時代から椿の葉を合わせて 餅の粉に甘葛をかけた餅菓子を食べた記述が 日本を代表する小説に描かれている。 それは、かの紫式部が光源氏を主人公として 54帖にものぼる大作として仕上げた「源氏物語」である。 54帖は400字詰めの原稿用紙、2,400枚分、 登場人物は約500名、物語は70年間に及ぶ 壮大にして稀有な王朝絵巻である。 中の一篇、第34帖、「若菜上」、 貴族の館で蹴鞠の会が催された時に、 若い男女が梨、柑子や椿餅を食べたと書かれているのだ。 「源氏物語」と言えば日本を代表する 古典文学であり光源氏を巡る恋のお話だ。 ということは、やはり「餡子椿は恋の花」だったわけだ。 さて、冒頭の二千円札の事だが、 紙幣の裏に描かれている女性は紫式部、 二人の男性は光源氏と冷泉院であり、 第38帖、「鈴虫」のなかの模様が描かれている。 艶々した椿の葉、上品な漉し餡、 抹茶と共に一時の古典を味わった。
by shige_keura
| 2014-11-25 21:17
| 食
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