家を飛び出したのが11時過ぎ、
この分では人形町到着のころは自分時、 どの店も混みあっているに違いない。 沢山良い店はあるだろうが、 どの店に入ったらよいか?とんと見当がつかず、 まごまごするのが目に見えている。 そこで何と、恵比寿のドトールでサンドウィッチとコーヒー、 何とも味気ない昼食で片付け出かけたのが失敗の基だった。 日比谷線の階段を上がって小網神社に向かう途中に 目に入ったのが洋食屋「小春軒」の看板である。 レストランの開業は明治45年、 当時、山形有朋のお抱え料理人であった 小島種三郎氏が独立開業したものだ。 店の名前は小島さんが結婚した相手が「春さん」であったことで 自分の小島の「小」の字と春を合わせて「小春軒」とした。 亭主が妻に惚れ込んだ気持ちが店の名前になった。 (奥の白塀、「玉ひで」よりずっと旨そうだ) メニューを見ると「メンチカツ」800円と極めて良心的、 こんなことならと、悔やんでも後の祭りとはこのことだ。 一番そそられたのが「牡蠣のバタ焼」、1,300円、 牡蠣の季節のうちにもう一度人形町を訪れよう。 小春の名前で思い出すのが演歌の名曲「王将」の歌詞。 「青い山脈」「支那の夜」「ゲイシャワルツ」「旅の夜風」等 数々のヒットを飛ばした西条八十さんの傑作中の傑作だ。 小春は将棋の鬼、坂田三吉の妻として 歌詞の2番に登場するが、1番から入ってみよう。 吹けば飛ぶよな将棋の駒に 賭けた命を笑わば笑え うまれ浪花の八百八橋 月も知ってる俺らの意気地 あの手この手の思案を胸に やぶれ長屋で今年も暮れた 愚痴を言わずに女房の小春 つくる笑顔がいじらしい 明日は東京に出ていくからは なにがなんでも勝たねばならぬ 空に灯がつく通天閣に おれの闘志がまた燃える 自然と村田英雄の雄姿(?)が浮かんでくるが、 特に2番の文句が素晴らしい。 「あの手この手」とは坂田三吉の 将棋に賭ける呻吟を意味しているだけではなく、 貧しい暮らしにもかかわらず笑顔を見せて あの手この手とやりくりしている小春の心根も表している。 ところで、坂田三吉の妻の名前だが、 実際は小春ではない。 小春とは戯曲、映画の「王将」を製作した 北条秀司の創作であり実際の妻の名前はコユウと言う。 坂田三吉は長いこと人妻だった コユウのことを想いつづけていたのだが、 彼女が離縁したことで一緒に所帯を持ち四男三女をもうけた。 夫・坂田三吉は無学で字は殆ど読めなかったそうだが 礼儀正しくダンディであり、 洋食、特に牛肉が大の好物だった。 その意味では我々が映画で知っている男とは大分違っているようだ。 (辰巳柳太郎演じる坂田三吉) もしも、私が坂田三吉の映画を作るとすれば、 こんなエピソードを入れてみたい。 時の関根名人に挑戦の為、 闘志を燃やして上京してきた坂田三吉。 (伝説の対局、左・関根名人、右・坂田三吉 坂田のセリフ「銀が泣いている」はあまりにも有名) 明日の対戦を控え、強運の霊験あらたかな「小網神社」に詣でた帰りに ふと目に入ったのが好物の洋食屋「小春軒」。 そこで注文したステーキを運んできた女将の小春にひとめ惚れ、 これが運命の出会いだった。 どうもお粗末様でした。 人形町の話はまだ続きます。
by shige_keura
| 2016-02-01 09:40
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