Top
「藪の中」が生んだ傑作
ここは京王線「多磨霊園駅」から
徒歩5分ほどの所にある聖将山「東郷寺」。
c0135543_9574179.jpg

枝垂桜の大樹の背後に
威風堂々の山門がそびえている。
c0135543_959188.jpg

開基は1940年と新しく、
聖将山との山号がユニークこの上もない。
c0135543_9595775.jpg

聖将に東郷と言えば、日露戦争を勝利に導いた
東郷平八郎元帥が先ず頭に浮かぶ。

「その通り!」
ここは元はと言えば東郷平八郎の別荘の跡地なのだ。

「東郷寺」は彼の死後、
元帥を慕う人たちによって建てられた日蓮宗の寺なのだ。

原宿に東郷神社、郊外に東郷寺なのだから
東郷平八郎は稀有の存在だったのだ。

さて、この寺の山門が有名になったのは
黒澤明1950年製作の傑作、
「羅生門」のモデルになったと巷間伝えられているが、
果たして本当なのだろうか?

                (映画「羅生門」のセット)
c0135543_102518.jpg

映画に出てくる羅生門は2階建て、
一方の東郷寺の山門は似ているとは言え2階は無い。
               (「東郷寺」の山門)
c0135543_1035544.jpg

映画の原作である芥川龍之介の「羅生門」は
朱雀大路にあった平安京正門の「羅城門」に由来している。

平安京の羅城門は跡地に石碑を残すだけだが、
復元図が当時の姿を今に伝えている。
c0135543_1051390.jpg

黒澤明は「東郷寺」山門の存在は知っていたとはいえ
実際の映画でセットとして組み立てたものは
あくまでも「羅城門」をモデルとしたものだと思う。

何故ならば、復元図と映画の羅生門は瓜二つとまで似ているからだ。

映画の「羅生門」は1950年製作、
原作は芥川龍之介の「羅生門」と「藪の中」を組み合わせたものにしている。

監督・黒澤明、脚本・橋本忍、音楽・早坂文雄、撮影・宮川一夫、
そして主演の一人が三船敏郎ならば東宝作品である筈だ。

ところが、この映画の製作・配給は大映である。

偶々、映画化の話が起きたとき、東宝は深刻な労働争議に突入、
黒澤明は退社してフリーとなったので
橋本忍と脚本を練り上げ大映に持ち込んだのだ。

当時の大映社長はワンマンで「ラッパ」の異名を取っていた永田雅一、
当初、映画化には全く乗り気ではなかった。

しかも、黒澤明が予算無視して金をつぎ込み
桁外れなセットを組んだことで腹を立てていた。

何しろ、山門の大きさが間口33メートル、奥行き22メートル、高さ20メートル、
資料に残されていた「羅城門」のサイズとほぼ同じものを作ったのだ。
c0135543_1062723.jpg

周囲1.2メートルの巨材18本を使い、
延暦17年と彫り込んだ屋根瓦を
4,000枚作らせてしまったのだから凝りようは尋常ではない。




一方、作品の内容は舞台は乱世の平安時代、
ある殺人事件の目撃者、関係者の食い違う証言を通じて
人間のエゴイズムを追及すると言う難解なものだった。

大映内での試写会、永田ラッパは激昂!
こんな訳も分からん映画を作らせてと、
総務部長を即刻、北海道に左遷してしまったと言う。

更に、一般公開の評判も芳しくなく
黒澤作品としては低調な興行成績、
その年のキネマ旬報での順位も5位でとどまった。

話はこれで終わらない。

ここからが意外な展開を見せていった。

欧州で歴史と権威ある映画祭が「ヴェネチア映画祭」、
たまたま、来日中のイタリアの映画祭主催者側が
日本からの出品映画物色中、
「羅生門」に目をつけ、大映に出品を要請した。

ところが、大映は全く乗り気を見せなかったので
イタリア側が彼らの費用で字幕を付けて
映画祭に出品することとなった。

映画祭で「羅生門」が紹介されるや大絶賛!
なんと最高の名誉である「金獅子賞」を受賞したのである。

ところが、当日、日本人は誰も出席していない。

困った主催者側は通りすがりのヴェトナム人を
黒澤明に見立てて何とか授賞式の格好をつけたと言う。

「羅生門、グランプリ受賞!」、
第一報を受けた永田雅一の最初の言葉が
「グランプリってなんや?」だった。

仔細を知ったラッパは途端に手のひらを返し、鼻高々に自慢し、
すべては自分の手柄であると吹きに吹いた。

当時、事情を知っている人たちの間で囁かれた言葉が
「黒澤グランプリ、「永田シランプリ」だったと伝えられている。

以上の話は何処までが本当なのか「藪の中」だが、
いかにも日本らしさを表している。

今では映画の歴史上、世界の名作とされている
小津安二郎の「東京物語」も公開時の興業成績は振るわず、
当年のベストワンは「にごりえ」にその座を譲った。

それが、後にフランスの監督フランソワ・トリフォーに絶賛され
英国でも高い評価を受けたとなるや、
日本の評論家諸氏の言葉が一変した。

日本人は「羅生門」受賞記念パーティー時の
黒澤明のメッセージを肝に銘ずべきである。

「日本映画を最も軽蔑していたのが日本人、
 日本映画を海外に出したのは外国人。
 日本人は大反省すべきである。
 どうして日本人は自分たちのやったことや
 作ったものに自信が持てないのだろう」。

最後に映画に主演した3人に触れよう。
c0135543_1075537.jpg

男優の二人、三船敏郎、、森雅之共に持ち味を出しているが
この映画では何と言っても京マチ子が出色の出来である。
c0135543_1095616.jpg

武家の奥方に扮した彼女の女の情念、
それは、ときには体の内に秘めこまれていたり、
突如、マグマのように体外に発散する。
c0135543_10104956.jpg

更に、凄いのは目の演技である。
c0135543_10111664.jpg

媚び、憐み、蔑み、嘆き、等々
揺れ動く感情を目で表現している凄さは驚きだ。

当初、監督の黒澤明は、
この役を原節子の起用を考えていた。

ところが、眉を剃ってテストに臨んだ京マチ子の強い意志が
監督の心を動かし彼女は主演を射止めた。

彼女の演技はその強い想いの表れなのである。

この作品に限って言ってしまえば
原節子から京マチ子への変更は大正解だと思う。
[PR]
by shige_keura | 2016-12-06 10:18 | | Comments(0)
<< 「春の小川」逝く 熊本・天草の旅 -殿さま気分- >>



2007年9月末にこちらに引っ越してきました。
→過去のブログを見る


ホームページ 



LINK 

カテゴリ
全体



スポーツ
その他
LINK
トリップアドバイザーにお勧めブログとして認定されました。金沢 ホテル
旅行口コミ情報
最新のコメント
↑恥ずかしいからそういう..
by Hiraoka at 17:45
試合はブチ切れるし、判定..
by shige_keura at 09:36
コメント有難うございまし..
by shige_keura at 18:00
全話をチェックした訳では..
by 通りすがり at 16:23
思い出しました!!! ..
by aosta at 13:46
以前の記事
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
more...
検索
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧

LINK FREE

このブログの写真・テキストの無断使用はお断りします。

(c) 2007 shige_keura. All rights reserved.