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急行列車2本
急行列車2本と言っても列車の名前は同じ、
歴史ある欧州の豪華長距離急行「オリエント急行」である。
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「オリエント急行」とくれば、これはもう、映画の話、
「オリエント急行殺人事件」の旧作(1974年)、新作(2017年)となる。

ただ、映画の話の前に、オリエント急行そのものと、
原作者アガサ・クリスティに触れてみたい。

「オリエント急行」は1883年、
トルコのイスタンブールとフランスのパリを結ぶ
特別長距離列車として走り始めた。

その後、起点~終点がフランスのカレー、ベルギーのオステンド、
ギリシャのアテネ、ルーマニアのブカレスト等々、鉄道網が広がったが、
今でもヨーロッパを代表する高級長距離列車だ。

推理小説「オリエント急行殺人事件」が書かれたのが1934年
舞台となる列車はシンプロン・オリエント急行で
イスタンブールを出発しトリエステ、ヴェネチア、ミラノ、
ローザンヌ、パリを経由してカレーが最終目的地となっている。
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また、この小説はミステリーの女王と言われた
アガサ・クリスティ―の14作目であり
急行列車の起点、イスタンブールの高級ホテル「ペラ・パレス」で執筆した。

今でも彼女が投宿した部屋は保存されており
数多くのファンが訪ねるという。
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「オリエント急行殺人事件」が最初に映画化されたのが1974年、
監督が「十二人の怒れる男」「女優志願」「セルピコ」「評決」等
秀作を次々と手掛けた社会派の雄、シドニー・ルメット。

そして豪華極まりのない配役が世間をあっと言わせた。
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アルバート・フィニーのエルキュール・ポアロ以下、
イングリッド・バーグマン、ショーン・コネリー、リチャード・ウイドマーク、
アンソニー・パーキンス、ローレン・バコール、ヴァネッサ・レッドグレーブ、
マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット等
とんでもない顔ぶれが勢ぞろいした。

手練れのシドニー・ルメットが名だたる人気俳優を見事に使いこなした作品は
バーグマンにアカデミー賞をもたらせ、全世界で大ヒットを記録した。

オリジナル作品(旧作)が名作であればあるほど
リメークするのはやりにくく勇気がいるものだが
現代だからこその風合いを見せた新作もなかなかに面白い。
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旧作が1974年、以来43年の月日が流れ
その間の映画の技術の進化がこの作品にまざまざと見て取ることが出来る。

その進化とは主に映像・音響であり、
この作品では通常のCGとは違って本物志向が感じられた。

モスクが立ち並ぶエキゾチックなイスタンブールを出発、
山間部に入りトンネルを抜けて雪山の世界に列車は入っていく。

観客はあたかもオリエント急行の一員になったかのように
シャンパンを飲み、美味しい食事をとりながら景色に映画に魅入られる。

勿論、このお話の主役は名探偵エルキュール・ポアロ。

アルバート・フィニーが演じた旧作のポァロを思い浮かべながら
ケネス・ブラナーが扮した名探偵を鑑賞するのも一興である。
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旧作は当時38歳のアルバート・フィニーが
これがフィニーかと驚くほどのメーキャップで一大変身、
変人ポアロをしつこいほどのアクの強さで演じたのが印象的だった。
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一方、新作のポアロはシェークスピア俳優で有名なケネス・ブラナー、
こちらはアクの強さでは一歩譲るが、
原作にあくまでも忠実なトレードマークの髭を売り物としている。
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どちらが好きかは映画ファンの嗜好によりけりだが
私には旧作のアルバート・フィニーの方がぴたりとくる。

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by shige_keura | 2018-01-14 11:02 | | Comments(0)
初春の掘り出し物
例年通り、年末年始はTSUTAYAで何枚かのDVDを借りて
自宅で好きな時間にゆっくりと旧作を楽しんだ。

なかでも、今まで何故見なかったのか不思議な作品を
漸く観ることが出来て十二分に満喫した。

映画は「料理長殿ご用心」(1978年公開)。
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オリジナルタイトル、”Who is killing the Greatest Chefs of Europe”の通り、
欧州で名だたる三名の名シェフを殺したのは誰かというお話だ。

本作品はフランス、イタリア、アメリカ、ドイツ合作の
国際色豊かな作品だが、フランス・イタリアの味わいが出ているのが良い。

ロマンチック・ユーモア・サスペンスが全体のトーンなのだが
このような作品の場合、ヨーロッパの方が一層洒落た風味に仕上がっている。

舞台がロンドン~ヴェネチア~パリ欧州の香り豊かな街、
そして全編に溢れる料理のメニューはと言えば
鳩、ロブスター、鴨肉とくるのだから堪らない。
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食い正月で満腹となって料理は元来見たくないところなのだが、
フランス、イタリア料理となると話が違う。

頭の中は赤ワインとフォアグラ、仔羊、鴨等が次々と浮かんでくる。

そして、この映画の最大の成功要因は
渋く芸達者の役者を揃えていることだ。

決して超一流のスーパースターの名前は出てこないが
欧米の手練れが次々と画面に登場する。
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主役の女性シェフ、ナターシャにはジャクリーン・ビセット。

1968年、スティーブ・マックィーンの「ブリット」で初めて見たときは
決して目立ったところがない女優だった。
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それが10年も経た本作の1978年には
より洗練され、演技的にも飛躍的に上達した役者に成長した。
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料理雑誌編集長として登場はロバート・モーリー、
彼を始めてみたのが1950年代の「80日間世界一周」
その時から腹回りが更に大きくなった彼は
グルマン編集長として、まさにぴたりとはまっている。
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極め付きは、フランス人シェフとしての登場がフィリップ・ノワレ、
私の最も好きな映画、「ニューシネマ・パラダイス」で
トトが慕う映画技師として本編を盛り上げた俳優だ。
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更には、ジャン・ピエール・カッセル、ジョージ・シーガル、
ステファノ・サルタ・フローレス等々
観ていて安心の役者が次々と出ている。

肩の凝らない素敵な作品は正月休みにはまさにうってつけ!



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by shige_keura | 2018-01-09 15:54 | | Comments(0)
馬の足
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「馬の足」と言っても、競馬の話ではなく
歌舞伎に関わるお話だ。
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5日の国立劇場は獅子舞、鏡餅、役者羽子板、
お正月気分満載。
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そのなかでの初春歌舞伎公演は
ここの所、毎年の恒例となっている
尾上菊五郎監修による通し狂言。
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演目「世界花小栗判官」が意味するように
新春らしい華やかな公演だった。
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中世以降語り継がれてきた「小栗判官」伝説は
歌舞伎、浄瑠璃の格好の題材となり
時代時代の好みに合わせて様々な脚色が成されてきた。

今回は室町時代、足利義満の治世、
謎の盗賊風間八郎と彼に父を殺された小栗判官の
紛失した重宝を巡っての争いが、
時には桜満開、またあるときは目も鮮やかな紅葉の舞台で繰り広げられた。

尾上菊之助の眉目秀麗は一際輝き、
久しぶりに尾上松緑が印象的な舞台を務めた。

このお芝居の呼び物の一つは
小栗判官(菊之助)の颯爽とした乗馬姿である。

歌舞伎の世界の言葉のひとつに
「あいつは所詮馬の足の役者よ」と
見下した言い方がある。

確かに馬の張りぼてに二人でもぐり込んで
顔は一切表に出ない馬の足役者は
舞台を張る主役とは決して言えない。

しかし、昔から「當世流小栗判官より馬の足」と言われている如く
このお芝居の馬は重要な役回りで大きな見せ場を作る。

張りぼての中に入った二人、
前の男は前が見えるが、後ろは全く見えないので
ぴたりと息が合わなくては馬の動きにはならない。

それが、今回の舞台では菊之助を乗せて
駆けるだけでゃなく、棹立ちになる。

そこで、馬上で扇を開く菊之助の格好の良さ、
大向こうから「音羽屋」の声が飛ぶ。
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2年連続で舞台上から投げ込まれる
ふるまいの手ぬぐいをゲットし
この冬一番の冷え込みの中、家路についた。


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by shige_keura | 2018-01-07 10:40 | | Comments(0)
格調高き指揮者
2018年新年おめでとうございます。
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元旦は娘二人の家族とともにお墓参りからスタート、
愛宕神社の急勾配の階段、名付けて「出世の階段」、
いまさら出世もないのだが、今年も頂上まで踏破!
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六本木ヒルズでの昼食、ワインの福袋購入の後、
我が家で賀詞交換、お屠蘇、お抹茶、と例年通りのセレモニー。
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夕方にようやく老夫婦に静かさが戻るころ
御節料理、金沢風、セリたっぷりのお雑煮を燗酒で、
頃はよし、ウイーン「ニューイヤーコンサート」の時間となる。
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今年のコンサートは絶対に見逃せない。
何故ならば、指揮者がリッカルド・ムーティだからだ。
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それは、我々がローマで暮らしているころの1996年のことだった。

町の名前は全く覚えていないが、ローマから南に1時間余りと記憶している。

そして、どのような経緯で誘われたかも覚えていないのだが、
その時のコンサートの指揮者がリッカルド・ムーティだった。

いざ、指揮・・・、彼は突如観客に向き直った。
その目つきの鋭いこと、そして威厳に満ち溢れた様相、
観客のざわめきをたしなめる行為だった。

彼がウイーンのニューイヤーコンサートの指揮を始めて執ったのが1993年、
従ってローマ出会ったムーティはまさに上昇気流に乗り始めたころ、
体内のエネルギーがほとばしって弾けるような迫力溢れた指揮だった。

ムーティはナポリの生まれだから情熱的で一本気で血の気も多い、
その為に多くのライバル、仲間とも衝突した。

その中でも、最終的には和解が伝えられているが
同じイタリアの世界的指揮者、アバトとの衝突は有名だ。

仲間はムーティをこう評した。
「真のマエストロは妥協せず、気難しくなるものだ」。
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今年、喜寿を迎えるムーティ、
髪の毛の白髪、眼鏡、柔和となった顔つきに時の流れは感じさせたが
その指揮ぶりは今でも威厳に満ち溢れている。
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奇をてらわない、あくまでもオーソドックスに徹するムーティ、
「ウイーンの森の物語」「美しき青きドナウ」
そして「ラディッキー行進曲」お馴染みのシュトラウスの名曲を
心ゆくまで堪能した3時間だった。

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by shige_keura | 2018-01-03 10:47 | | Comments(0)
憧れの頭巾
国立劇場12月公演は通し狂言、
「隅田春妓女容性」(すみだのはる げいしゃかたぎ)。
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サブタイトルに―御存梅の由兵衛ー(ごぞんじ うめのよしべい)とあるように
由兵衛がお家騒動にからむ悪事を暴く物語。

大阪に実在したと言われる人物を江戸の男伊達侠客とした芝居は
寛永8年(1763年)のお正月公演として
江戸桐座で沢村宗十郎主演で賑々しく始まった。

その後、大正から昭和にかけて初代中村吉右衛門の当たり役となり
8代目松本幸四郎に引き継がれ、今回当代、吉右衛門が挑んだ。
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今や70歳半ばに差しかかろうとする吉右衛門で体力的な懸念が持たれたが、
今回は国立劇場で久しぶりの熱演を見せてくれた。

お芝居の中で興味を持ったのが由兵衛が被る頭巾、
その名前を宗十郎頭巾というが、
この出現は江戸時代の初演に遡る。

このとき、梅の由兵衛を演じた沢村宗十郎が
男伊達を演出するために考案した頭巾と言われている。

この頭巾の特徴は「錣」(しころ)という名前の菱形の飾りが
頭巾御額の上に飾りとして貼り付けてあるため
当初は「錣頭巾」と呼ばれた。

その後、歌舞伎演目が大好評を博し
主役を演じた沢村宗十郎に因み「宗十郎頭巾」と言われるようになった。

江戸時代の末期は、武士の間でもこの頭巾は流行し
特に目立たぬように江戸の町を微行するときに用いられた。
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坂本龍馬と行動を共にした陸奥宗光も
宗十郎頭巾を被って市中を探索したと言われている。

しかし、私にとってのこの頭巾はなんといっても「鞍馬天狗」、
天狗のおじさんに扮した嵐寛寿郎のトレードマークとして親しんだものだ。

鞍馬天狗と言えば嵐寛十郎、
通称アラカンの当たり役中の当たり役。

アラカンの鞍馬天狗の登場は昭和2年の「角兵衛獅子」から
昭和31年まで、実に40本を数えている。
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恐らく、映画史上一人の俳優が扮したヒーローとしては
最多の登場になるのではないだろうか。

宗十郎頭巾の登場は昭和11年の
「ご存知鞍馬天狗 宗十郎頭巾」に始まるので
私が見始めた昭和20年代後半には
この頭巾なくして天狗のおじさんはあり得なかった。

当時の腕白小僧の遊びと言えば「チャンバラごっこ」、
自分も含めて多くの子供が風呂敷を覆面に見立てて
追いつ追われつの剣戟ごっこで我を忘れた。
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そのような、昔懐かしい遊びを思い出しながら
吉右衛門の宗十郎頭巾姿を楽しんだ。

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by shige_keura | 2017-12-10 11:14 | | Comments(0)
芸術の秋・食欲の秋
秋はスポーツたけなわの季節であるとともに、
芸術、食欲の時でもある。

11月7日、ここの所めっきり少なくなった秋晴れの一日、
この日をおいて芸術を楽しみ、且つ、食欲を満たす日はない。

先ず向かった先は日比谷、TOHOシネマズ・シャンテで公開中の映画、
「女神の見えざる手」を観ることであった。
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オリジナルタイトルとなっている"MISS SLOANE"(ミス・スローン)は
本編の主人公、凄腕のロビイストである。

銃規制問題で揺れるアメリカ社会、
銃規制是か非か?

巧妙な戦術を駆使して政治を裏から操るクールで美しい
敏腕ロビイストを描いた社会派推理劇である。

「恋におちたシェークスピア」「マリーゴールドホテルで会いましょう」等、
寡作ながら傑作を世に送り続けるジョン・マッデン監督の腕の冴えを
十二分に楽しむことが出来た。

監督の期待に応えたのがミス・スローンを演じるジェシカ・チャスティン、
ハリウッドの百花繚乱ともいえる多彩な人材に目を見張らされた。
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精神安定剤を常用、相手陣営を陥れるためには信頼する部下の命まで危険にさらす、
時にはストレス解消のためにエスコートクラブの男とベッドを共にする。
遂には・・・・・・、ここから先は言わぬが花。

上司までもが「君は本当に厄介だ」と言わしめる女、スローン、
アメリカ社会ならば有りうることと納得しながら
上質の推理劇に気持ち良く翻弄された。


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by shige_keura | 2017-11-10 09:53 | | Comments(0)
千姫と坂崎出羽守
小学校の頃だから、60年以上の大昔のことなのだが、
「千姫」というタイトルの映画を観た。

調べてみると本作品の公開が1954年であるので
私が10歳の時のことだと判明した。
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主役の千姫に扮した京マチ子の記憶はおぼろげなのだが、
その一方、槍を振るって姫を大阪城から救出する
勇猛果敢な坂崎出羽守(山形勲演)は良く覚えている。

何故、このような昔話を持ち出したのかというと、
国立劇場11月公演、「坂崎出羽守」を鑑賞したからだ。

今回の鑑賞は昔を思い出すだけでなく
新たなことを学んだことともなった。

それは、この演目の作者が「路傍の石」でおなじみの
文化勲章受章屋者の山本有三であり、
彼の生誕130年を記念して36年ぶりの上演となったことだ。

山本有三が「路傍の石」を出版したのが1937年なのだが
「坂崎出羽守」を完成させたのは、それより早い1921年、
名歌舞伎役者の六代目・尾上菊五郎のために書き下ろしたものだ。

その後、「坂崎出羽守」は菊五郎から、これまた名役者の二代目尾上松緑、
そして若くして世を去った初代・尾上辰之助を経て
36年ぶりに当代の四代目尾上松緑が演じている。

この作品の最も重要なところは
無骨者で直情な坂崎出羽守が千姫に対して芽生えた恋心と
姫を助け出したときに負った無残な火傷からの劣等感、
そして武士として受けた耐えがたい屈辱感、
それらの屈折した心理描写を細緻に表現するところにある。

それを、当代松緑は初役で
獅子奮迅の熱演で応えようとしているのは良く分かるが
まだまだ、祖父・二代目松緑と比較云々ではないと感じた。





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by shige_keura | 2017-11-07 15:20 | | Comments(0)
世界の「桑畑」と「椿」

渋谷東急本店で行われている、
三船敏郎映画デビュー70周年記念展
「世界のミフネと呼ばれた男」を覘いた。

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世界に誇る日本の大スターの美辞麗句が躍る中、
彼の出演映画はもとよりプライベートを紹介した多数の展示が行われていた。

三船敏郎、彼の存在感、カリスマ性を認めることに吝かではないが
彼の演技力を含めた代表作はどの作品になるのだろうか。

ヴェネチア映画祭で初のグランプリに輝いた「羅生門」で
最も光り輝いたのは京マチ子であり次に森雅之、
三船は主役3人の中では最も影が薄いと感じた。

映画史に残る大娯楽作品の「七人の侍」では
菊千代を演じた三船の異彩を放つ演技は認めるが
志村喬、宮口精二の存在感には及ばなかった。

黒沢明の現代劇で最も面白い「天国と地獄」でも
仲代達矢、山崎務に比べると三船は一歩及ばぬと感じたのは私だけだろうか。

オムニバスとも思える、数々のエピソードを巧みに積み上げた「赤ひげ」、
三船の豪胆な医者は天才子役二人、二木てるみと頭師佳孝にたじたじとなった。


三船敏郎が世界のミフネと呼ばれるほどの存在感を発揮した作品は
「用心棒」と「椿三十郎」に尽きると思っている。


桑畑とは映画、「用心棒」の冒頭で
名前を問われた主人公の素浪人が
一面の桑畑を見やりながら「桑畑三十郎」と野太い声で答えた名前だ。   

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続編となる「椿三十郎」では
隣の椿屋敷に咲く椿を見やりながら自分の名前を桑畑から椿へと変えている。
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「用心棒」の舞台は上州を思わせる空っ風が吹きすさぶ宿場町、
そこのやくざの縄張り争いに桑畑三十郎が割って入る物語。

続く「椿三十郎」はある藩のお家騒動に三十郎が加勢するお話で、
ともに似たようなストーリーとなっている。

ここでクローズ・アップされるのが敵役で両作品に登場する仲代達矢である。

「用心棒」では短銃を懐にしのばせるニヒルなやくざ卯之助、
「椿三十郎」では剃刀を思わせる凄腕の家臣、室戸半兵衛、
若き日の仲代達矢、一世一代の演技である。

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(「用心棒」の三船敏郎と仲代達矢)

一般的に映画では悪役が強そうに悪そうに見えれば見えるほどに
主人公の存在感が一層引き立ってくるのだが、
まさに仲代があればこそ三船敏郎の存在感が圧倒的にスクリーンを支配している。

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                   (「椿三十郎」最後の決闘、三船対仲代)
稀代悪役が放つ毒の花を余裕をもって受け止めて主役は誰にも譲らない、
まさに世界のミフネが君臨した作品である。


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by shige_keura | 2017-10-27 18:14 | | Comments(0)
ピカソと紫陽花
ピカソが紫陽花の絵を描いた事ではない。
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6月15日、梅雨の合間の晴れの日、
暑さを感じるが、時折涼やかな風が吹き抜けていく。
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ここは高級住宅地と言えば田園調布、
お馴染みの並木道を洒落た邸宅を見ながら進むと宝来公園。
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そこを右に入ってすぐの所に本日の目的地が現れる。
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福岡に続き「みぞえギャラリー」が、
ここ田園調布にオープンしてから5年を記念して
「ピカソ、その芸術と素顔」と題した特別展示が行われている。
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瀟洒な日本家屋は数十年前に一代で巨億の財産を築きながらも
波乱万丈な生涯を送った横井英樹氏が建てたと伝わっている。
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入館無料ながら訪れる人の数は平日の為か多くないので
ゆるゆると天才の芸術2点を鑑賞した。

ひとつはピカソが没する1年前(1972年)に描いた「男の顔」、
そしてゲルニカ空爆の前日に完成した「静物」だ。
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ゲルニカ空爆とは、
スペインが右派と左派に分かれて内戦に突入した最中、
フランコ将軍と手を組んだドイツ空軍が
1937年4月26日北部バスク地方の最古の町
ゲルニカを徹底的に破壊したものである。
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悲劇の一報をパリで聞いたピカソは
パリ万博の壁画に当初の予定を変更してゲルニカの悲劇を描く事を決心し
3.5メートル×7.8メートルの大作を1か月余りで完成させた。
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ゲルニカの壁画はむごたらしい惨状を
ピカソ独特のタッチで描き彼の傑作として
後世に伝わることとなっていった。

ここ、田園調布ギャラリーで見る「静物」は
ゲルニカの悲劇の前日を表すかのような
「嵐の前の静けさ」の雰囲気が伝わってきた。

展示のもうひとつのテーマ、「素顔」は
ピカソの晩年に家族のように寄り添うように暮らしたカメラマン、
ロベルト・オテロの数十にも及ぶ作品が展示されていた。

そこには娘に捧げるピカソの愛情に満ちた表情、
それとは対照的なスピーチに臨む前の
ピカソと関係者の緊張の糸が張りつめたかのような写真が印象的だった。

日本庭園を見ながらお茶に羊羹のサービスを満喫しギャラリーを出る。
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目的は無く足の向くまま坂を上り下りして
多摩堤通りを丸子橋を目標に進む。
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陽の照りつける中の散歩、
疲労感が増す頃に思い出したのが
多摩川台公園の紫陽花が見ごろだと言うことだった。
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公園内にはご同輩がスケッチをしたり写真を撮ったりと賑やかな事。
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紫陽花の種類も昔とは比べ物にならぬほど多くなり目移りがするが、
私は定番のブルーのものが最も好ましく思える。
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梅雨の合間の晴天の一日、
ピカソと紫陽花で充実した気分となった。
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by shige_keura | 2017-06-23 09:51 | | Comments(1)
祭のあとの祭りの準備
競馬最大のお祭りと言ったら
「ダービー」(東京優駿)であることに異論をはさむ人は居ないだろう。

満3歳を迎えた若駒、7,500頭から選ばれし18頭が
一生に一度のチャンスを掴もうと晴れの舞台で躍動する。

               (2017年ダービー優勝馬、レイデオロ)
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馬を管理する調教師の人たちは、よくこんなことを口にする。

「ダービーが終わった翌日から
 来年のダービーに向けての準備が始まるのです」。

とは言え、ダービーが終わった翌週の土曜日の競馬場は
どことなく緊張感が解け放たれ、ゆったりとした気配が流れている。

中高校の先輩であり、敬愛する故山口瞳さんは
人気連載「男性自身」のなかで「ダービーのあと」と題して
東京競馬場に流れるゆるりとした雰囲気をものの見事に表現していた。

確か、こんなことが書いてあったように思うのだが。
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「春競馬のクライマックス、ダービーが終わった府中、
 そこはかとなくのんびりとした空気が漂っている。
 それはダービーが無事終わったあとの安堵感から来ているのだろうか。

 馬の数も気のせいか少ないようだ。

 すでに夏競馬の福島、新潟、北海道に旅立ってしまったのだろうか。

 ひと際逞しくなった馬たちが戻ってくる秋には
 違った名勝負が繰り広げられることだろう。」

6月3日晴天の土曜日、すなわちダービーの翌週、
府中競馬場に足を運んだ。

この季節に富士山がくっきり見えるのは珍しい。
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それほど空気は澄んで清々しい日だった。

この日のお目当ては午後の最初のレース、第5レースである。
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このレースは関東地区で行われる
最初の2歳馬のデビュー戦、つまり新馬戦である。

この年代の2歳馬が何頭いるのか知らないが
恐らく7,800頭はいるだろう。

その若駒が来年のダービーを目指す最初のレースなのである。

レース開始前30分、パドックに16頭の若駒が入場してきた。
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生まれてはじめてのレース前のパドック、
キョロキョロあたりを見渡す馬、
早くも胸前に汗を滴らせている馬、
古馬のように落ち着いている馬、
チャカチャカとせわしない歩様で歩く馬。

中では4番のビリーバーの気配の良さが目立っていた。
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4番人気とそれなりに人気を集めているのだが、
最大の懸念が騎手の岩部、
こういっては悪いが決して上手いジョッキーとは言えない。

御贔屓の田辺のブショウ(2番人気)か
柴田大地のヴイオトボス(3番人気)とも考えたが
結局は自分の目を信じ岩部のビリーバーをビリーブ(信頼)することとした。
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ゲートが開いて来年のダービー目指して
16頭が力強い蹄音を響かせ4コーナーから
府中の長い直線に入ってきた。
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残り200メートルの所で内をついて
4番のビリーバーが先頭に立ちゴールを目指す。

脚色は良いが抜け出すのが早すぎるのでは?

その懸念はゴール前で現実となった。

真ん中と外から2頭の馬がビリーバーを交わし
ゴール板を馬体を接するように駆け抜けた。

掲示板には1着12番ヴィオトボス、
2着14番ブショウ、3着4番ビリーバーと揚がった。

「うーん、残念、やはり騎手の腕の差が出たか」。

馬券戦術には負けたが、
本シーズン初の新馬戦を大いに堪能した。

来年のダービーにはどのような18頭がコマを進めてくるだろうか。

ダービーが終わった次の日から
来年の祭りの準備が始まったのだ。
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by shige_keura | 2017-06-06 21:58 | | Comments(0)



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