江夏の勝敗を分けた
第19球目の話を続ける前に 9回裏の攻防を 最初から振り返ってみたい。 何しろ、9回裏の攻防だけで 26分49秒を要したのだから。 しかし、長いからといってだれることなく 緊迫感溢れた 実に密度の濃い攻防だった。 更に、勝利の女神が あっちを向いたりこっちを見たり 野球の面白さが これほど現れた時もない。 先ず、9回裏を迎えるに当って 広島の古葉監督は守備位置の変更を告げた。 3塁の衣笠を1塁に 2塁の三村を3塁にである。 三村は衣笠に比べ 3センチ背が低い。 この事が勝負の行方を大きく左右するとは この時点では誰もが考えなかっただろう。 さー、9回裏近鉄の攻撃開始だ! 先頭打者の6番羽田が 初球をセンター前に弾き返す。 これは江夏にとって 思っても見なかったことだった。 江夏の常識では 9回裏1点差の場面 打者は様子見、 初球ヒッティングは 予想外の出来事だったのである。 江夏は外角に甘めのボールを 不用意に投げ込んだのを悔やんだ。 しかし、その一方では 後日次のように語っている。 「大体あの場面で 最初からふってくるような奴は 碌なバッターじゃない」 代走に俊足の藤瀬、 次打者はアーノルド、 1-2後、監督西本は ヒットエンドランを仕掛けた。 ところが、アーノルドはサインを見落とす! (送球がまともなら楽々とアウト!!)| スタートが遅れた藤瀬は 2塁で憤死と思いきや 水沼の投球がとんでもないワンバウンド、 送球はセンターに抜け 近鉄は労せず無死3塁のチャンスを得た。 ここでバッテリーは アーノルドを敬遠 走者は代走の吹石が起用された。 8番は左に強い平野。 カウント1-2のとき 吹石は2盗に成功する。 このとき、江夏は水沼が 2塁に送球しなかったことにカーッときた。 江夏としては 1点は取られても アウトを稼ぎたかったのだ。 即ち、江夏はこのとき 同点は覚悟していたのだ。 先ほどの悪送球に続く失態、 水沼は気配を察し マウンド上に駆け寄る。 謝る水沼、 憮然とする江夏。 しかし、結果的に見れば このことが近鉄をゼロで封じ込める事となるのだから 野球の神様は時として気まぐれなものだ。 何故ならば、無死2,3塁となった事で 当っている平野を 迷うことなく敬遠することが出来たのだから。 今度は平野が憮然として 1塁に向った。 さー、無死満塁 代打には左殺しの佐々木が起用された。 前年の首位打者で この年のペナントレースでも 勝負強さを発揮した佐々木だが 膝の故障で日本シリーズでは ベンチを温めていた。 しかし、ここは江夏とは言え 得意の左投手 まさに、舌なめずりして 打席に立ったに違いない。 ここで、数々のドラマが生まれる。 先ず最初のドラマは 1ボール後の2球目 ど真ん中の直球を 佐々木が見送ってしまった事だ。 (江夏は佐々木の初球の見送り方で カーブ狙いを完璧に読み切っていた) カーブを狙っていたとは言え 余りにも絶好球の為 身体が金縛りにあったのだろう。 佐々木は今でも この場面の夢を見るという。 「何で、あの球を見逃したか!!」 続く3球目、佐々木はバットを一閃、 バッテリーと3塁手の三角地点にバウンドした打球は 高く上がって3塁手の頭を越えて ラインの僅か左で二つ目のバウンドをした。 この当たりはこの上もなく微妙! (3塁塁審のファールの判定) 塁審がフェアと判定しても おかしくない打球だった。 更に打球はジャンプした三村の グラブをかすめるように 頭上を越えていった。 ここでグラブにかすったらフェア! よしんば、辛うじて捕っても 本塁は間に合わなかっただろう。 もしも3センチ背の高い衣笠であれば 局面が大きく変わっていたかもしれない。 (判定はファールながら、一瞬前のこの画像からは フェアにも見えるが・・・・・・ しかし、江夏はあのコースがフェアになるはずがないと断言) 3塁コーチの仰木、 ベンチの西本監督は 何故か抗議もせず試合は続行。 (3塁線の当たりのあと思わずベンチを出る西本監督 彼はこう判断した、”コーチの仰木が抗議せんのだから ファールなのやろーな”) しかし、このとき江夏にとっては味方の 一塁手衣笠が彼に駆け寄ってきた。 その理由は明日に続く。
by shige_keura
| 2009-07-08 09:26
| スポーツ
|
| ||||||
ファン申請 |
||