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”鬼”は何故”鼠”が好きなのか? -前編-
鬼とは我々誰一人知らない人は居ないと思われる、
”鬼の平蔵”、即ち長谷川平蔵だ。
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一方の”鼠”とは、
都内某所に存在する坂の名称である。

故池波正太郎氏、最大の人気シリーズの「鬼平犯科帖」、
ファンに好まれる理由は様々あるだろう。

主人公、平蔵の酸いも甘いも噛み分けた采配を初め
登場人物の多彩な顔ぶれとユニークなネーミング、
生唾がこみ上げてくる旨そうな料理等々。

そして、手練の筆致で描かれる
当時の江戸市中、町々の表情も興味の的である。
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正太郎氏に描かれる江戸の町々、
その多くが平蔵の出生の地、本所、深川を初め
上野、浅草、等いわゆる下町であるのは当然だ。
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何故ならば、当時の山の手は未だ草深い田舎、
平蔵とて偶の機会に気ままな見回りをするくらいのものだった。




小説の中では数少ない山の手の描写、
ところが異例なほどに数多く登場してくる坂道がある。

               (麻布界隈の古地図)
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その名は、「鼠坂」、
麻布永坂、狸穴方面に今でも残る
名前の通りの小さな坂道だ。

何の取り得があるのだろうか?

この「鼠坂」がシリーズ中、
実に4回も登場してくるのだ。

弟3巻  「麻布ねずみ坂」
”鼠坂”の中途の立木の蔭へ立ち
山田同心は舌打ちをもらした。
坂の向い側の植木屋の大きな敷地つづきに
中村宗仙の家が見える。
・・・・・
編み笠をかぶった浪人姿の変装で
巡回中の山田同心はまた舌打ちを鳴らし
”鼠坂”を南に下って行く。
このあたりは武家屋敷やら空き地が多く
日中でも余り人通りのないさびしい場所であった。

弟14巻 「浮世の顔」
細い坂道が曲がりくねっているこの辺りに町家はない。
ほとんどが武家屋敷か組屋敷であり、
したがって日中でも人通りは極めて少ない。
塗り笠に木漏れ日を避けつつ、
長谷川平蔵は”鼠坂”の上の道に出た。
鼠坂の右側は崖地で
緩やかな斜面を埋めた木立が下の谷に続いている。
・・・・・・・・
平蔵も当時のことが脳裡に浮かんだかして
ひょいと、笠の内から”鼠坂”を見下ろした。
・・・・・・

弟21巻 「麻布一本松」
平蔵が旗本屋敷の角を右に折れた。
(あ、”鼠坂”なんか歩いてどうするつもりなのだ。
 あんな所に店屋なんかありゃしない。
 植木屋ばかりではないか・・・・・)
そのとおり、麻布の”鼠坂”辺りには植木屋が多く、
この坂を「植木坂」と呼ぶ人もいる。
”鼠坂”を南に下りはじめると人影がはたと絶えた。
起伏の多い土地柄で崖地の樹木が鬱蒼としており
町家は全く無い。
・・・・・・
振り向いた忠吾の眼に、
飯倉の方から”鼠坂”を下ってくる男の姿が飛び込んできた。


弟22巻 「特別長編-迷路-」
麻布飯倉の大田屋敷に手紙を届けた井上立泉の家来和田十次郎が
その帰途襲われたのである。
和田の死体は麻布の”鼠坂”で発見された。
発見したのは、近くの光照寺の僧であった。
・・・・・・・
この辺りは武家屋敷や空き地が多く
”鼠坂”の両側は深い木立で
日中でも人通りが少ない、寂しい場所なのだが
それにしても白昼の犯行である。

池波正太郎氏が4回に渡って取り上げた「鼠坂」、
どこに氏の心を揺り動かした秘密が隠されているのだろうか?

麻布と言えば私の馴染みの場所、
これは己で見回りをして調べてみよう。
by shige_keura | 2011-03-07 10:35 |
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