お馴染みの落語の一席に、「長屋の花見」がある。
大家さんに呼び出された店子一同 溜まっているタナ賃の催促かと戦々恐々、 ところが、皆で花見に行こうじゃないかとのお誘い。 熊さん、八さん、一同大喜びしたまでは良かったが、 貧乏長屋のわびしさで、お酒の代わりに薄めた番茶、 大根を蒲鉾に見立て、玉子焼はタクワンで代用、 緋もうせんならぬムシロを敷いていざ花見。 ”酒盛り”ならぬ”茶か盛り”では 気勢が上がらず、やけのやんぱち。 「長屋じゅう歯を食いしばり花見かな」、 自虐の俳句が飛び出したり、 「おい見ろい!酒に茶柱が立ったぜ!!」 「この玉子焼は、どうにもこうにも歯ごたえが・・・ 堅くて噛み切れねーーー」 ハチャメチャのなかに噺は進んでいく。 さてさて、今年は大震災の影響もあって お花見は自粛ムードが横溢するなかで 東京も桜は見ごろとなってきた。 「ちょいと、ご隠居さん、 今年は花見をしちゃいけねーっていうのは 本当ですかい? 見ちゃいけね-、たって こんだけ咲いてりゃ見えちゃうんですがねー それとも、目隠しでもして歩けって、事ですかね?」 「そうじゃないよ、熊さん、 見えるものは見りゃいいんだよ。 ただおまえさん、例によっての酒飲んで放歌高吟 騒ぎまわるのはおよしよ、ってことですよ」 「酒ったって、こちとらはなから 薄めた番茶しかねーんだから、 おとなしく花を愛でるのは構わねーんでしょう? そうでもしなけりゃ綺麗に咲いた花が浮かばれねー、ってもんだ」 「おや!熊さん、どうしたんだい!! お前さんらししくなく、マトモなことをお言いだねー」 それから数日後、 「ご隠居さん行って来やした、お花見に」 「そりゃよかった、何処へ行っておいでだね?」 「手近なとこで新宿御苑でさーー」 「近いったって、お前さん、 新宿御苑と言えば、”日本さくら名所100選”に名を連ね 1300本以上の桜の木があるんだから そりゃ綺麗だったろうねーー それにね、御苑の元をただせば信濃の高遠藩、 内藤家の下屋敷、高遠って言えば 高遠桜で有名な桜の名所なんだから はなっから、桜には縁があるんだよ」 「そりゃ凄え!それにしてもご隠居さん、 流石、りゅうせき、ながれいし、良く知ってなさる!!」 「馬鹿なことお言いじゃないよ、 ところで、咲き具合はどうだったんだい?」 「8分咲きってところかね、 いや、それにしても桜って一口に言ったって 随分といろんな種類があるってもんで・・・」 「そりゃ、桜は日本の花、”花は桜木、人は武士”なんて言ってね、 種類もざっと見積もったって50は下りゃしませんからね」 「そりゃ、どうりで!!!! しかし、桜ってやつも”おなご”みてーに、 ほんのり薄化粧から、艶っぽい紅の色から、 年の頃も若ええのから年食ったやつまで、 ”吉野太夫”なんて、まるで花魁みてーのがあるんですね?」 「それを言うなら”染井吉野”だ。 こいつはね、もとも吉野山の桜を お江戸の染井で育成したのが名前の由来ってわけだよ」 「なるほど、そうですかい、 ですけど”年増桜”なんて婀娜っぽいのもありましたぜ」 「何?年増桜だ??? ははーん、そりゃ”大島桜”の間違いだね、 お前さんも相変わらずだね、全く、 だけど、熊さん、おまえさんだって お花見すりゃ気持ちは和むし良い気持ちだったろうね」 「そりゃ、その通りよ!ご隠居さん、 江戸時代は”長屋の花見” 平成の世は”自粛の花見”よ!ウイ――ッ!!」 「どうしたんだい? おまえさん」 「いやどうもこうも、 番茶の飲み過ぎで二日酔いになりました」 おあとが宜しいようで、 尚、本ブログの画像は 4月6日、汗ばむ陽気の新宿御苑にて撮ったものである。
by shige_keura
| 2011-04-09 07:28
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