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雨のオークス、静かな湖畔 -後篇-
5月下旬の山中湖畔の日曜日夕刻
普通ならば人、車のざわめきが感じられるのだが
今日に限っては森閑としている。

皆、天気予報を信じ、帰りを急いだか?
或いは雨を避け、御殿場のプレミアム・アウトレットで買い物しているのか?

雨にぬれた新緑が目に心地よく
まるで優しく洗眼されているかのようだ。
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桜、藤の季節は終わりをつげ
山吹が満開に差し掛かろうとしている。
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雨は小やみになったとはいえ
散歩をする天候ではない。

何をしようか?????

ふと思いついて、CDを取り出して聞くことにした。

カーペンターズの澄んだ歌声が
新緑に吸い込まれていく。
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「いいね、いいね!! ピッタリだぜ!!」
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本来ならばジントニックか?ハイボールか?
傾けたいところだが今回は堅く禁酒を誓っている。

CDラックを眺めているうちに
そばの本棚にある一冊の本に目が止まった。

故向田邦子さんの文庫本、「父の詫び状」である。

恥ずかしながら、今まで、彼女の作品を何故かパスしてきた小生、
丁度良い機会とページを開いた。





さー、それからは夕食を挟んで
耳と目とそして頭にとって充実一途の時間となった。

とにかく向田邦子さんの文章が素晴らしい、
ひとつのエッセイが終わると次のエッセイへの期待が盛り上がる。

そして、その期待に背かぬ珠玉の一篇が現れる。

一篇、一篇は長くなく、むしろ短い、
しかも、一見脈絡が無い文章が続く事もある。

「一体全体どういう関係があるんだ?」

それが最後に来て見事に完結される。

「そうか、これが彼女の言いたかったことか!」

沢木耕太郎が流石に旨い表現をしている。

「彼女の最後の文章は、
 あたかも、机の上に散乱している菩提樹の実に糸を通し、
 瞬時にして数珠を作るかのように・・・・
 すべてが一気に統合される」

CDは今は亡きイタリアはナポリの大御所、
ロベルト・ムロ-ロの枯れた歌声に代わっている。
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2002年、彼92歳の時のニュ-・アルバム、「歌を夢見て」、
曲は”酔わせておくれ”、”愛”、”悩むことないさ”、
”サクランボの味”、”甘い記憶”・・・と続いていく。

どれもがイタリア的、”明日への希望”が
静かにこめられ、安らぎを覚える。

向田邦子さんの簡潔なる文章からは
その場の情景がくっきりと浮かび上がっくるようだ。

殆どのエッセイが彼女の少女、乙女時代の思い出、
両親、妹、兄、そして友達にまつわるエピソードだ。

どれもが心に沁み入る話の中で
とりわけ「お辞儀」と題された一篇には参った。

最後のくだりを抜き書きしてみよう。

「親のお辞儀を見るのは複雑なものである。
 面映ゆいというか、当惑するというか、
 おかしく、かなしく、そして少しばかり腹立たしい。
 自分が育て上げたものに頭を下げるということは、
 つまり、人が老いるということは避けがたいことだと判っていても、
 子供としては何とも切ないものがあるのだ」

経験ある御同輩の方々は絶対に共感するだろう。

私も詳しい状況説明は省くが
親にお辞儀をされた時、
なんとも切なく、自分に腹立たしく
どうにも複雑な思いで暫し茫然としたものだった。

自分の胸の的のど真ん中に向田さんの矢が突き刺さった。

瞬時に当時の情景が浮かび上がってきた。

「どうにも参ったな」
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歌は、セリーヌ・ディオン、ルイ・アームストロング、
クイーン、竹内まりや、ビージーズと続くうちに
「父の詫び状」も最後のページとなった。
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音楽良し、文章もまた良し、
湖畔の宵は静かに快く更けていった。
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by shige_keura | 2011-05-26 09:05 |
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