もしも貴方が私と同様、スコットランドを荒涼の地とイメージしているのならば
ハイランドの南西に広がる丘陵地帯、グレンコーを訪れると良い。 (愈々グレンコーに分け入る、6月14日) グレンコー(Glencoe)とは「嘆きの谷」との意味。 スコッチ・ウイスキーのグレンフィディック、グレンリベットのように スコットランドにはグレン(谷の意味)を始まりとする名前が多いが 秋から冬にかけて、寒さがひとしお厳しさを増す時期にこの地を訪れるならば グレンコーの持つ名前の意味がもっと良く分かるに違いない。 更に、この地は1692年に起きた「グレンコーの虐殺」で より「嘆き」が谷の如く、深くなっていった。 この事件はイングランドの強硬派によって起こされた グレンコー村に住むスコットランド人への大虐殺であり この事件以降、スコットランドとイングランドの仲は どうにもならぬほど、ぬきさしならぬものとなっていった。 さてさて、今日の主役の一人は、ここの荒れ地で1924年に生まれた。 彼は子供の頃、我が身に降りかかった不幸をバネに成長し、 世界中の誰もが知るヒーローと登りつめていった。 名前を言えば「あっ、そうなんだ」となる。 "My name is Bond,James Bond"! 東西冷戦、緊張の糸が張りつめた1950―60年代に誕生した西側のスーパー・ヒーロー、 殺しのライセンスを持つ男、007/ジェームス・ボンドである。 ボンドは1953年の「カジノロワイヤル」でデビューしたが 長らく、彼の生まれ素性は詳らかにされなかった。 その秘密が公開されたのが1964年、 日本を舞台とした「007は二度死ぬ」、 任務遂行中に行方不明となったボンドに対し、 母国のロンドン・タイムスに死亡記事が掲載された。 記事の内容はかいつまんで言うと次の通りだ。 英国予備役海軍中佐のジェームズ・ボンドは1924年、 スコットランドのグレンコーでスカイフォール村出身の父・アンドリュー・ボンドと スイス人の母・モニカ・デラクロアの間に生まれた。 11歳の時彼の身に不幸が降りかかる。 フレンチ・アルプスのシャモニーにて 両親が登山事故に巻き込まれ、この世を去ってしまった。 叔母のミス・チャ―ミン・ボンドの保護下で 名門のイートン高に入学を果たすも 友人のメイドと問題を起こし退学処分となる。 その後、19歳の時、国防省の、とある機関に入り、 やがては、表向きは「ユニバーサル貿易」を名乗る 英国海外情報部の007課員となる。 彼の最初の活躍が1953年の「カジノ・ロワイヤル」、 実にボンド29歳、若々しさとエネルギーに溢れる一方、 若気の至り、女性にチョッカイを出す事を無上の楽しみとしていた。 2012年に公開された「スカイフォール」、 ボンドは映画の中で初めて里帰りを果たす。 しかしながら、グレンコーで撮影された「スカイフォール」で 親愛と尊敬、忠節を誓ってきた上司の”M”を失う不幸に遭う。 (「スカイフォール」、ダニエル・クレイグ、007と Mを演じたジュディ・デンチ、グレンコーにて) (「スカイフォール」ロケ地近辺) (映画スカイフォール、グレンコーにて) 「スカイフォール」がボンド・シリーズ第23作、 ここまで6名のボンド役者が登場してきたが 極めつけボンドと言えば、ヒ-ロよりも6年遅い1930年に誕生した ショーン・コネリーに留めを指すだろう。 (歴代ボンド役者、左よりS・コネリー、J・レーゼンビー、R・ムーア T・ダルトン、P・ブロスナン、D・クレイグ) その理由の一つと思われるのが コネリーもボンド同様、スコットランド出身だからではないだろうか。 但し、彼の生誕の地はスコットランドの首都・エディンバラ、 ここに、ショーン・コネリーの持つ都会の洗練された味、 洒落たユーモアを解す男が主人公・ボンドとピタリ重なってくる。 しかしながら、この世にボンドを送りこんだ男、 イアン・フレミングはスコットランド人ではなく イギリスはウエストミンスター近くのメイフェアで生まれた。 (ボンドの生みの親、イアン・フレミング) 1906年生まれのフレミングは大手新聞社ロイターのモスクワ支社長を経て 1939年英国海軍情報部に入所、第2次大戦中はスパイとして活躍 引退後、ジャマイカの別荘(ゴールデン・アイ)で自分の経験をもとに ジェームズ・ボンドシリーズを執筆していった。 世界的ヒーロー・ボンドを描くには彼ほどの適材は無く 主人公を演ずるにショーン・コネリーほどのはまり役は見当たらない。 アメリカ元大統領、ジョン・F・ケネディ並びにジャクリーン夫人をはじめ 世界中の男女に好まれる男としての素地は十分すぎるほどであった。 6代目ボンド、ダニエル・クレイグが活躍した「スカイフォール」、 目の前に広がる景色にダブらせながらドライブを続ける。 ボンドの愛車、アストン・マーティンとはいかないが、 レンタ―カ-・ベンツの走りは快調、 そろそろ、「嘆きの谷」を抜けるころ、 宿泊地、グレン・モリストンが近づいてきた。 そこでは、今回の旅の目的のひとつ シングル・モルトの逸品・グレン・モ-ランジ-が待っている筈だ。 琥珀色の液体が目の前に浮かんでくる。 ここは、焦ってはいけない、 ボンドの様にアクセル全開することなく 安全運転に徹しよう。
by shige_keura
| 2014-06-30 11:44
| 旅
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