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神様、仏様逝く -2-
稲尾さんのみにしか成し得なかったであろう
”投球術の真髄”とは具体的になんだろうか?

投手は投球し終わったら何処を見るか?

視線は自分の投球したボールを追うか、
又は、捕手のミットを見るだろう。

すこしばかり投手の経験がある私は
投球したボールの行方を追っていたと思う。

ところが、稲尾さんは
普通の投手とはまるで違っていた。

彼は自分のボールが手から離れるや否や
打者の目を直視していたのだ。

彼の考えの根底には
”目がすべてを物語る”がある。

そして、具体的な理由はふたつ。

1.打者が引っ張るか流すかを目を見ることによって見極めて
  いち早く守備体勢を整える。

2.打者が何を狙っているか、何を考えているかを把握する。

これぞ稲尾流投球術の真髄、
まさに”神の投球”と言うより他はないだろう。
  



ところが神様をして
何を考えているか見当がつかぬ打者が現れた。

ほかならぬ長嶋茂雄である。
          (三原、水原宿命の対決)
神様、仏様逝く -2-_c0135543_21154027.jpg

1958年、長嶋巨人入団、
その年の日本シリーズで
二人は初めて対決する。

第1戦、初回ランナーを置いて打席に入った長嶋を見て
稲尾は面食らった。

打つ気があるのか無いのか
まるで気配が読み取れないのだ。
          (稲尾のスライダーに喰らいつく長嶋)
神様、仏様逝く -2-_c0135543_21164043.jpg

稲尾が投じた外角に逃げるスライダー、
まさか、バットに届かないとの思いをあざ笑うように
長嶋は及び腰でライト線への長打としてしまったのだ。

ここで稲尾は対長嶋用として
乾坤一擲の作戦を決めた。

”ノーサイン”で投げよう!

相手が考えていないのなら
こちらも考えるのはやめよう、の作戦だ。

このままだと
”逆算の投球”とはまるで矛盾する事となるが・・・・・・・・・、

このシリーズ、巨人3連勝のあと
西鉄が盛り返し、2連勝、
運命の第6戦を迎えた。

稲尾好投し、2-0のまま9回裏巨人の攻撃
2死ながら走者1,3塁で打席に長嶋を迎えた。

本塁打が飛び出れば、巨人の逆転サヨナラで
日本シリーズ制覇の劇的な結末となる。

3塁ベンチから監督の三原が出る。

監督の腹は、8分どおり敬遠で固まっていたが
稲尾が珍しく強硬に勝負を主張した。

そして、この勝負の条件として
”逆算の投球”があったのだ。

稲尾の読みはこうだった。

「長嶋はまさか自分が得意としている
 内角近辺に稲尾が投げてくるとは思っていない。

 しかし、彼のことだ万一内角ならばと
 舌なめずりして逆転サヨナラホームランを狙っている。

 それならば、その考えを利用してやろう。

 最初の2球は外角をつき
 長嶋の目を外側に集中させておこう。

 3球目、ここで長嶋が万が一と待っている内懐に
 稲尾が彼自身最も得意としている
 シュートボールを放る。

 長嶋はこれぞいただきと強振するだろう。
 
 しかし、このボールは彼の予想以上に
 ボールひとつ内角に食い込むから
 さしもの長嶋でも詰まるはずだ」

そして1-1後、運命の3球目が
長嶋が待望している内角に入ってきた。

「やった!!」とばかりバット一閃。

ところが、結果は長嶋の思いとは裏腹に
力のないキャッチャーへのファールフライ。
神様、仏様逝く -2-_c0135543_2118489.jpg

ゲームセット!!!!!
神様、仏様逝く -2-_c0135543_21182897.jpg

稲尾さんはその後、幾たびか
次のような言葉を残している。

「ボールを投げた瞬間
 長嶋の目が歓喜に打ち震えた。

 彼には絶好球に見えたのでしょう。

 私は生涯15,000人ほどの打者と勝負したが
 あれほど歓喜と感動に満ちた目は二度と見ていない」

あの、のるかそるかの場面でも
稲尾さんは冷静に打者の目を観察していたのだ。
by shige_keura | 2007-11-15 08:54 | スポーツ
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